おめでとうどころでない年明けから、阪神淡路震災メモリアルも過ぎてしまいましたが、ようやく。
2023年イケガミー賞発表です。
2023年に映画館で見た映画は73本。そのうち22本に賞を授与する大盤振る舞いシステム、いや、これでもまだ足りないんだけど、大ヒット(あまり見てない)や、映画祭とか世間が評価してるものはそちらにおまかせすることに。
と、いうわけで、今回もこんなんたぶん誰も1位にしてないであろう、見た人も少ないこれが
最優秀作品賞:『オオカミ狩り』!
2月に見たので、そのあと追い越されやしないか(南米アニメのオオカミたち『オオカミの家』『ペルリンプスと秘密の森(主人公がオオカミ)』が来たときにはやばかったが、2本には各賞を振り分けて対応)、ハラハラしましたが、悲しいときや苦しいとき、退屈なときに『オオカミ狩り』と呟いて1年を乗り切ることができた点を評価。そこまで贔屓するか、こんな映画を。
フィリピンから韓国への凶悪囚人(男女)護送貨物船で、囚人軍団が警官を制圧。しかしそこに真っ赤な怪人アルファが登場し、誰かれ構わず皆殺しに。とにかくびゅんびゅん人が死ぬ。悪い奴ばかりなので容赦の必要もなし。これから、という時に主要キャラっぽい奴が簡単に死ぬ、最悪クズ野郎イケメンがえーっ?というタイミングで秒殺、いい場面連発で逃げ延びた姐さんは男たちの犠牲を全部ムダにして瞬殺、このアナーキーなドラマツルギーがすごい。これはあれだ、大森ゴジラの篠原ともちゃんの死にざま以来だ。アルファたんのフロアぶち抜き登場シーンを思い出すだけで、つまらない日常が破壊される。楽しいなぁ。
いやいや、こんなに現実が悲惨な世界でそんな残酷を享楽していていいのか?と、いうわけで、
監督賞:『熊は、いない』のジャファル・パナヒ監督!
今世界で、もっとも困難な状況にある監督がこの人でしょう。なにせイラン政府から「監督禁止令」が出ているのだ。だから「監督した」と言ってはいけないのだが…というシリーズがもう何本目だろう。このシリーズはパナヒさん自身が出演し、周りで起きたことがたまたまカメラに撮っていた「というてい」で展開。今回はトルコ国境に近い田舎でwifiの弱さに困りながらリモートで監督…じゃなくて、トルコの撮影現場と連絡を取っている。突然押しかけてきた助監督に車で拉致され「パナヒさん、国境に来たってことはアレっすよね!もうブローカーには話つけてるんで!レッツゴー!」と、亡命させられそうになる監督なんて世界に他にいます(いるかも…)?そんなイラン因習ど田舎の「熊」とは?熊はいないのか?うろうろ歩く姿がくまちゃんっぽいパナヒさん、あんたが熊では…と、みんな思うよね?
なお、パナヒさんは息子さんパナー・パナヒ監督作品『君は行き先を知らない』も今年日本公開。亡命する長男を国境で見送る父母と弟の話。いい題名だよね。
さて、熊、とオオカミ。
チリの「一軒家丸ごと(サンディエゴ国立現代美術館の展示室での公開製作など。ステキな美術館なんだよね。民家にはポケモンシールが貼ってあった…)ペイント&撮影したストップモーションアニメ」という狂気のアートアニメーション
『オオカミの家』にホラー大賞。
なぜ、ホラー?理由は、アーティスティックなイメージフォーラムでの連日満員の大ヒットだったんだが、終わったときにお若い方が「ホラーじゃなかったね」と抜かし、もといおっしゃったから。君は来し方(歴史)を知らない。マリアが逃げてきたコロニアとはなにか、なぜブタが人間になってボーイソプラノで歌うのか、オオカミの声とはなにか。それでもわからない方のために大サービスで最後にコロニア・ディグニダの門(実写)を映しているんだが(ゾッとする)。…南米マニアでないとわかんないか。それでも撮影の狂気だけでも十分ホラーだけどなぁ…
イランや南米のことだから、と、背景がわからないとただ美しいだけに見えてしまう?いや、私だってそんなに学んではいないけど(日本在住日本人平均よりはやや学んだ、映画のおかげで)。これら映画に埋め込まれた「不穏ななにか」が、戦争や国家的暴力を意味していると観客が感じないのは、映画にとって危機的なことではないのか。映画の側の「丁寧な説明」が不足してるからではない。観客のリテラシーとは「丁寧な受容と分析」ではないか。
痛快スプラッター娯楽作品の『オオカミ狩り』ですら、アルファたんの出自は「アレ(阪神優勝ではない)」なんだぜ?後述の『ゲゲ謎(助演男役)(反日)』も『ファントム:幽霊(ユリョン)と呼ばれたスパイ(アクション&衣裳デザイン)(抗日)』もそう。
でも永年映画とゾンビから学んできた身としては、最初はわからなくても「なにかひっかかる」の正体が、オトナになってわかった時がほんとのホラーだと思う。そして私もまだわかってなかったごめんなさい、な、ことは、もし生きていれば後年更なるホラーとして知る日が来るのかもしれない。震えて待て、俺。
そんな現代史、「南米のトランプ」と呼ばれたボルソナーロ前大統領政権下(今はアルゼンチンに南米のトランプが…なぜ次々と…)、世界最大の熱帯雨林アマゾンを有する新興工業国ブラジル(丁寧な説明)で作られた、カラフルで美しい夢の世界
『ペルリンプスと秘密の森』に、Bestアニメーション賞!
アニメ、『スパ』『君どう』見てなくて、3本しか見てないけど、3本全部受賞。アレ・アブラウ監督の前作『父を探して』は全編セリフなし、キャラクターは「棒人間」で水彩画のような世界の中、構造的資本主義に破壊されるひとと都市の営みを描くアニメーションの到達点だった。けど、今回は、セリフあり、アニメならではの「謎アニマル」なかわいらしいキャラクター(ペルリンプスはキャラの名前ではない)たちが、かわいい声でペラペラ喋りながらだいぼうけん!この子たち(自称オオカミ、と、自称熊でしっぽはライオン)が「秘密の森を冒険」する映画の、その子どもじみた夢想と口げんかが、ほんとうはどんなおそろしい意味なのかがわかる終盤。そして最後の車の窓に映る自分を見つけた「子どもっぽい」たったひとつのセリフで、すべての絶望を希望に転換する。北半球のオトナのみんなも、自分が悪い社会の一員だと思ったとき、このセリフを口にするといいよ!
そんな「窓」を見つめる無垢な瞳、は、
パルムドッグ賞(犬は主演俳優として最重要部門)で、『レニグラ』以来大好きなフィンランド(ロシアとウクライナの隣)のアキ・カウリスマキ『枯れ葉』のわんこ(名前はもちろんある)に!
前記事
https://porluchas.exblog.jp/33202622/
でもう書いたけど、この窓と外界のシーンがすばらしい。映画全部がいいが、それを作ったのは一匹の犬。
次点は『SISU』のウッコくん。フィンランドにもプードルはいる。かわいい。ナチになつくな。
さらに動物。
2023年はまさかのロバイヤー!『イニシェリン島の精霊』のジェニーちゃん(助演ロバ賞)がアカデミー賞授賞式にトコトコと現れ、(作中での)非業の死に涙した全米を「ジェニーちゃん(役のロバちゃん)は無事です!」と嬉し涙に溢れさせ、これがピークか。と思いきや!まさかの
主演ロバ賞『EO(イーオー)』がやってきた!
イーオーやばマジかわいい愛しいえらい(6頭一役で演じた)。いろんなひどい目に遭うのだけど、サッカーチームの幸運のロバになるくだりが好き。
さらに韓国『極限境界線(ベストバディ賞)』や中国『宇宙探索編集部(ベストムー賞)』にもロバは登場。『フリークスアウト(惜しい!無冠!好き!)』ではナチとも闘ったしね。時代はロバのトコトコスピードが求められているのではないか。
ベストバディ賞『極限境界線』
は韓国お得意の“信じられないが実話です国家機密が今はオープンになったのでアクションエンターテインメント映画にしちゃいました~”映画。お題はアフガン韓国キリスト教会布教入国タリバン人質事件(相手国に失礼な嘘ついて戦地にこっそり入国した自国民を、国家はなぜ?どうやって?守るべきか?)。『愛の不時着(見てない)』のヒョンビン様が常にセクシー&ワイルド(ムダにシャワーシーンとバイクチェイスあり)で、やだもうすてきすぎこりゃ人気出るわぁ、と思っていたが…。もう一方の主人公、ほとんど「電話してるだけ(基本そういう映画)」の官僚役ファン・ジョンミン(2022主演男役賞)が洞窟に監禁されてからの肝の据わり方で見せる見せる!ファンジョン!次はソマリアだ!
バディといえば
『ゲゲゲの謎・鬼太郎誕生(3本しか見てないアニメ:3本しか見てない日本映画)』の“水木”に助演男”役“賞(時節柄、イケガミー賞は俳優のジェンダーでなく役のジェンダーで評価。そもそもアニメだし)。
これ、ダブル主演と評する向きもあるが、やはり主役はゲゲ郎(仮)(主役なのにすごい名前だ)。両者はバディであっても、水木(出番はたぶんゲゲ郎より多い)は水木という名である以上、助演の語り部なのだ。水木しげると、ゲゲゲの鬼太郎の通底音である”総員玉砕せよ!“をリンクさせた場面で「メガネのほんとの水木」の隣にいたフィクションの「イケメン水木」が、戦後「こんな国は滅びてもいい!」に至るこの国の歴史。
主演男“役”賞は。この国に植民地にされたあの国の側の韓国『復讐の記憶』のフレディ。
アメリカンでグローバルなファミレスFriday'sのアイドル店員だった80代アルツハイマー・末期がん老人が、退職して腕に仇の名前をタトゥーして後輩店員くんをこき使って真っ赤なポルシェで殺人行脚!なんだそのあらすじ!だが、ほんとにそういう話。名前も忘れたなら復讐しなくてよくない?と思うじゃないですか。そうじゃないんだよ。忘れると赦すは違う。
なお、今年のテーマは「老い」。73本中13本が老いについての映画。
同じく韓流抗日映画
『ファントム・幽霊(ユリョン)と呼ばれたスパイ』アクション・コレスポンデンスと衣裳デザインのダブル受賞
は、赤や水色のピタピタ革手袋なんて『帝都物語』加藤かよ!こんなオシャレな日本軍いねぇよ!と言いたくなる、スタイリッシュでアンニュイな密室スパイサスペンスが…アライグマ帽子(エブエブとかぶる、が、人間を操る生き物ではない)と毛皮ジレ(室内なのにモコモコ!)を着こなしたゆ~りこちゃん:パク・ソダム(パラサイトのジェシカこと貧乏妹。『パーフェクトドライバー』とダブル受賞)が、なにかのビーストが乱入したかと思ったほどのテーブル全力疾走!からの爆発!炎上!二丁拳銃!修道女!のギャング系アクションに突入するすごい転換。女性バディものでもある。ドス低音ヴォイスのイ・ハニ姐さんもかっこいい。力道山(ソル・ギョング)と素手ゴロ互角だぜ?
世界の映画潮流は女子バイオレンスなので、日本映画は今こそ原作に忠実な『スケバン刑事・地獄城編』『ふたたび地獄城編』を作るべし。早くしないと韓国に獲られるよ。
最優秀子ども役賞『ミーガン』
もバイオレンス女子。ミーガンさん最強にかわいいが、ケイディの「秘密の家族がいるの(拳!)」はかっこよかったな。
そしてこれ、前年の子ども役&助演男役の『アフターヤン』と対になっていて、「2022優秀な子守ロボットが故障して死ぬ(ヤンくん)」と「2023優秀な子守ロボットが故障して人殺しする(ミーガンさん)」なのよね。
さらにバイオレンス女子会
『ソフト/クワイエット』にアンサンブル賞。
夫に内緒でネオナチ白人至上主義女子会。その中にさらに(未婚&既婚、正規&非正規、地元&移住などの)ヒエラルキーがあるという地獄のマウンティング女子会。殺戮女子会とアジア系被害者を演じた女性俳優陣のメンタルが心配だが、ちゃんとケアがなされた現場であると感じたのもよかった。演じることで学び、それを観客に共有させること。の凄み。
そんなミソジニーな
「クソ野郎オブザイヤー」賞は、『聖地には蜘蛛が巣を張る』
ソフクワとどっちにするか迷ったけど、やはりノーヒジャブ女性虐殺の国:イランの連続殺人鬼がクソ野郎。『聖地には蜘蛛が巣を張る』というオシャレな邦題だが『スパイダーキラー・イラン娼婦16人殺し』というタイトルで「シネマート新宿:狂人暴走映画祭」に入れてほしい。犯人だけでなく、周りがひどいのでほんと救われない。
もちろんイランの事情なんか知らない、では済まされないし、そう言っていると自国にも(世間に容認される男性原理で女を殺す)スパイダーキラーはやってくるよ。なお、この文章を考えながらシャワー浴びていたらハエトリグモ(トコジラミを捕食するそうなので益虫)が現れた。真冬なのに。しかしオスを殺す女郎蜘蛛こそが最強益虫かもしれんな(蜘蛛は虫ではない)。
大トリ!
主演&助演女役賞、ダブル受賞!『あしたの少女』。
これ、チョン・ジュリ監督のデビュー作(これが二作目)が「わたしの少女」だったのをもじったタイトルで、それはどうかと思うが…原題は『次のソヒ』。主役のソヒは地獄のテレアポ業インターンで摩滅して自殺してしまう女子高校生。これ、実話で、それが社会問題になって「次のソヒ(を生み出さない)法」が作られたんだとか。映画はアンハッピー・エンドだったので、それはよかった。
このチラシと特典ポストカードの写真。チラシは手前に大きく写ってる、大スターのぺ・ドゥナがボケボケでしょ。小さくピント合ってるのが、若手俳優のキム・シウン。ポストカードは逆バージョン。
これが二人の関係で、前半はソヒの苦難と真冬にサンダル履きでの悲劇的な最後、その直後、暴力刑事ぺ・ドゥナ(『わたしの少女』でも暴力刑事)がごついブーツと革ジャンでどーんと登場。ソヒの死の真相を追うが「社会構造なので仕方ない」の壁に阻まれ…。「共演」しない二人がシンクロする緻密な演出。これはぺ・ドゥナがしっかり「助演」してるから成立する。
結局韓国映画圧勝になってしまいましたが、一覧は以下!
これまとめるためにチラシの山を見返してたら、あれも入れたい、これも入れたい…になってしまう。現実は過酷だが、映画には力がある。
今年も!
[イケガミー賞2023一覧]
作品賞:『オオカミ狩り』(韓国:キム・ホンソン監督)
監督賞:ジャファル・パナヒ『熊は、いない』(イラン)
Bestアニメーションof the world:『ペルリンプスと秘密の森』(ブラジル:アレ・アブレウ監督)
主演女役賞&助演女役賞:『あしたの少女:Next Sohi』(韓国:チョン・ジュリ監督)、キム・シウン(主演)ぺ・ドゥナ(助演)
パルムドッグ:『枯れ葉』(フィンランド:アキ・カウリスマキ監督)最後に名前が明かされるわんこ
次点:『SISU:不死身の男』(フィンランド:ヤルマリ・へランダー監督)ウッコくん
ロバオブザイヤー:イーオー『EO』(ポーランド:イエジー・スコモリフスキ監督)助演ロバ『イニシェリン島の精霊』ジェニーちゃんほか全世界のロバ
主演男役賞:『復讐の記憶』(韓国:イ・イルヒョン監督)イ・ソンミン
助演男役賞:『ゲゲゲの謎:鬼太郎誕生』(日本:古賀豪監督)水木(CV:木内秀信)
最優秀子ども役賞:ミーガンの中の子:エイミー・ドナルド『M3GAN』(アメリカ:ジェラルド・ジョンストン監督)
ベストアンサンブル賞:『ソフト/クワイエット』(アメリカ:ベス・デ・アラウージョ監督)
Bestバディ賞:『極限境界線』(韓国:イム・スルレ監督)
カーオブザイヤー:『パーフェクトドライバー』(韓国:パク・テミン監督)
最優秀ゾンビ:『呪呪呪:死者を操る者』(韓国:キム・ヨンワン監督):ゾンビ映画そのものが少ない…そんな中、「ブードゥーゾンビで全力疾走!」という思いがけない新ジャンル。
クソ野郎オブザイヤー:『聖地には蜘蛛が巣を張る』(デンマークほか:アリ・アッバシ監督)
ベストリバイバル&チラシ文章:『金持ちを食いちぎれ』(イギリス:ピーター・リチャードソン監督:シネマート新宿&キングレコード):これは貧民が金持ちになろうとする映画ではない。この世の不条理を正す映画である。と、4ptくらいの字で書いてある。
最優秀造形賞:『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』(カナダ:デヴィッド・クローネンバーグ)
ホラー大賞:『オオカミの家』&『骨』(チリ:クリストバル・レオン&ホアキン・コシーニャ監督)
最高モンスター賞:『Piggy』(スペイン:カルロタ・ペレダ監督)ピギー役のラウラ・ガラシ、これも俳優さんのメンタルケアをしっかりやらないといけない。身体も。
最高ムー賞:『宇宙探索編集部』(中国:コン・ダーシャン監督)ロバも出る。
アクションコレスポンデンス&衣裳デザイン賞:『ファントム・幽霊(ユリョン)と呼ばれたスパイ』(韓国:イ・ヘヨン監督)
ありがとう4K:『ヘルレイザー』(イギリス:クライヴ・バーカー監督)